アフターダーク

村上春樹の作品は3種類ある。「蛍」、「TVピープル」、「神の子どもたちはみな踊る」などに代表される短編小説。
それから、「世界の終わり〜」、や「ダンスダンスダンス」、一番最近でいうと「海辺のカフカ」のような作者の顔ともいえる長編小説の数々。村上春樹の代名詞ともなる作品の数々だ。
そして3つ目は「国境の南、太陽の西」「スプートニクの恋人」という大作までいかないものの、どこか特別な雰囲気を持っている中編小説。
ぼくはこの中編小説に特別なより所みたいなものを持っている。小説中の多くの言葉は物語の背景だけをひたすら語り、核心をつく言葉は語られない。
登場人物の想いだけが、文章になって表れる。そう、まさに、作家という人たちがすることは、上手い文章を書くことではなく、きれいな言葉をかざりたてるのではなく、小説という物語の空間を描く人たちなのだと、ぼくに教えてくれるのである。
アフターダーク」は言うまでもないことだけど、中編小説という特別なポジションを持っていた。
ノルウェイの森」のような感傷もないし、「スプートニクの恋人」のような文体もないけれど、でも、それでも、そこに書かれていることは、まさしく、そう、村上春樹の描く空間ではないだろうか。