村上春樹について少し

引用の引用ですが...

村上春樹さんの回答>
 我々はみんなこうして日々を生きながら、自分がもっともよく理解され、自分がものごとをもっともよく理解できる場所を探し続けているのではないだろうか、という気がすることがよくあります。どこかにきっとそういう場所があるはずだと思って。でもそういう場所って、ほとんどの人にとって、実際に探し当てることはむずかしい、というか不可能なのかもしれません。
 だからこそ僕らは、自分の心の中に、あるいは想像力や観念の中に、そのような「特別な場所」を見いだしたり、創りあげたりすることになります。小説の役目のひとつは、読者にそのような場所を示し、あるいは提供することにあります。それは「物語」というかたちをとって、古代からずっと続けられてきた作業であり、僕も小説家の端くれとして、その伝統を引き継いでいるだけのことです。あなたがもしそのような「僕の場所」を気に入ってくれたとしたら、僕はとても嬉しいです。
 しかしそのような作業は、あなたも指摘されているように、ある場所にはけっこう危険な可能性を含んでいます。その「特別な場所」の入り口を熱心に求めるあまり、間違った人々によって、間違った場所に導かれてしまうおそれがあるからです。たとえば、オウム真理教に入信して、命じられるままに、犯罪行為を犯してしまった人々のように。どうすればそのような危険を避けることができるか?僕に言えるのは、良質な物語をたくさん読んで下さい、ということです。良質な物語は、間違った物語を見分ける能力を育てます。

http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20080324

河合隼雄との対談を読んだときも感じたことなんだけど、ぼくはこういう村上春樹のスマートな考えがとても好きだ。非常にわかりやすくて説得力のある良い文章だと思う。何よりも読者に読ませる。
村上春樹の小説ももちろん好きなんだけど、物語の素晴らしさを人に伝えることが職業として存在するのなら、日々生きてる人生にどれだけの意味が含まれているのかを考えさせる何かを作れるのなら、この人が適任だと思う。
ある意味では本人の小説や諸々の翻訳物よりも、価値のあることなんじゃないかと思えるんだけど。