夏目漱石 - 「門」

漱石の小説はどれもそうだが、すくいがない。
世間一般の方々は「こころ」のどこに感動するものなのか検討がつかない。
少し前の日記に「門」は物語を語らない、と書いた。ストーリーの核心となるものがいっこうに始まらない疑問を書いたものである。
今では多少違った考えをしている。「門」は冒頭から既に物語が始まっていたのだ。
背景はすべて「それから」から始まっている。「門」は「それから」から押し出されるようにして作られた物語だ。おまけみたいなものである。(しかし、それこそが漱石の描きたかったことなのではないかとぼくは思うけど)
打ち上げられた人工衛星が規則正しい惰性によって軌道を周回するように、「門」は寡黙な存在だ。
綿密な計算によって手に入れた軌道を話さないように、踏み外さないように。ただそれだけを考えて。